mokomokorabitsの日記

ハイヒールやフレアスカートが似合う女性を目指したい

再会

 昨日、3か月ぶりくらいに会う友達と夕飯を食べに行った。

 同じ学部の同級生で、ある授業がきっかけで仲良くなって、今では泊まりでDVD鑑賞をする仲だ。あまり社交的ではない私が、たまたま授業で席が近かっただけの人とここまで仲良くなるのは珍しい。大学の人間関係がほぼ部活の人間関係とニアリーイコールになっている私にとって、貴重な、部活以外の友達の一人である。久しぶりに話をして、次また遊ぶ約束もして、おなか一杯食べて楽しかった。

 でも本題はそれではない。

 

 そのお店で友達と談笑しているとき、ふいに誰かに苗字を呼ばれて、顔を上げると、以前バイトで働いていた個人経営の居酒屋の奥さんがいた。ご主人である店長と、お孫さんたちとそのお店に外食に来ていたらしい。前後の席だったのに私は全く気付かなかった。

 驚いて、お久しぶりですと挨拶をすると、就職は決まった?と訊かれた。「なんとか無事に決まりました」「よかった。何の会社?」「建設会社です」「そうか、場所はまだわからんの?」「はい、配属が決まるのはまだ先なので」こんな感じの会話を交わした後、店長と奥さんたちは先に帰っていった。

 

 本当に驚いた。友達に今の誰?と訊かれて、前にバイトしてた居酒屋の店長と奥さん、と答え、その後も普通に友達と会話していたのだけど、内心はなんかこう、ずっと揺れていた。この気持ちをどう言葉にしたらいいんだろう。

 

 あんな風に普通に明るく、向こうから声をかけてくれたことに驚いた。

 私の顔と名前を、今年就活生だということを覚えてくれていたことに驚いた。

 私はその居酒屋のバイトを、逃げるようにやめたから。だいたい8か月前。

 そこは結構バイトの人手不足が深刻で、バイトの内容も覚えることが多く、週末は鬼のように忙しく、私は自分の要領の悪さや覚えの悪さといったいろんな至らなさを痛いほど実感した。自分と同時期にバイトを始めた年下の子のほうがよっぽど仕事ができたりして、自己嫌悪に陥っていた。労働時間が長くてきついこと、しかし人手不足でシフトにできる限り入らなければならないというプレッシャーのようなのようなものもあって、私はどんどんそのバイトが憂鬱になって、そして結局、できない自分をこれ以上思い知るのが辛くて、バイトをやめた。部活とかほかにやりたいことに時間を使いたいという、まったくの嘘ではない理由で。人手不足とわかっているのに申し訳なかったけど、正直、バイトをやめてからはかなり気持ちが楽になった。

 バイトをやめたいと申し出たとき、店長は特に咎めたり引き留めたりはしなかった。でも、店長や奥さんにや他のバイトのメンバーにどう思われたのかを考えると怖くて、バイトをやめた後は、その店の前を通るたびに少しドキドキしたり、店の中にいる店長や他のバイトの人と目が合わないように気を付けたりしていた。後ろめたさをずっと感じていた。

 そんな私にかかわらず、向こうから、笑顔で声をかけてくれた。いつから私がいることに気づいてたんだろう。名前を呼んで、進路を気にかけて。バイトしていたころとは髪型も違うし、バイト中は既定のポロシャツにバンダナだったから私服姿はぴんとこないはずなのに。

 どう説明したらいいんだろう。私はなんだか、恥ずかしかった。こそこそしていた自分が恥ずかしくて、すごく小さい奴みたいに思えた。使えないバイトのまま辞めた私は店長や奥さんと顔を合わせないように避けていたのに、私が迷惑をかけたその人たちは何のてらいもなく私に話しかけて、近況を気に掛ける言葉をくれた。私は、自分が恥ずかしくて情けなかった。何に対してかわからないけど、ごめんなさい、と思った。

 動揺したけど、ちゃんと私も笑顔であいさつできていたはずだ。店長と奥さんもお元気ですか、くらい聞けばよかった。今さら遅いけど。

 

 居酒屋でのバイトはしんどかったけど、オーダーをとったり料理を運んだりお客さんと話したり、という内容自体は好きだった。バイトを始めて間もないころ、お客さんに料理を提供する心構えとか、接客の基本とかを店長が話してくれるのが好きだった。バイトが終わった後に食べるまかないが本当に美味しくて大好きだった。どんなにバイト中にミスをしても、まかないを食べるときや最後に帰るときに挨拶をしたらいつも同じトーンで「はいよー」「お疲れ様、気を付けて」と言ってくれる店長と奥さんが好きだった。

 私は居酒屋のバイトが嫌いだったんじゃなくて、使えない駄目な自分が嫌いだった。

 あの時バイトを辞めずにもう少し頑張ってたら、今頃少しは使える戦力になれてたかなあ。自己嫌悪の気持ちも少しは薄らいでたかなあ。

 

 私にできることは、居酒屋のバイトをやめたことで余裕ができた時間を、精一杯有意義に過ごすことだろう。勉強でも遊びでも。

 大学を卒業するとき、挨拶に行ってもいいだろうか。行く勇気が出るだろうか。

 新型コロナの影響がどれくらい出ているのかわからないけど、これからもお店が繁盛して、店長と奥さんが元気でいてくれますように。